おぼえがき

過ちては則ち改むるにうんぬんかんぬん

道路交通法における「信頼の原則」について

〇信頼の原則とは

一見すると被害者に過失があるように見えても、加害者が被害者の行動を尊重してくれるはずだとの信頼が認められるときに、被害者の過失をなしとしたり、過失割合の認定の際に考慮されること。

 

加害者の顕著な違反行為あるいは異常な行動が事故原因になっている場合、道路交通法規を遵守していた被害者に事故原因につき予見可能性がなかったものとして、無過失を認定する。

加害者が適切な行動に出ることを信頼することができる場合に適用されるのであるから、それが期待できない幼児や高齢者に関しては適用されない。

 

信頼の原則は対等者間で働き、車両と歩行者との事故ではあてはまらない(これはちょっとひどい)。信頼の原則は訴訟手続的には、事実上、被害者側の立証責任を緩和する働きをする。

 

 

〇上記信頼の原則の要約

リクツの上では予見可能だったかもしれないが、「相手方の顕著な道路交通法規違反行為や異常な運転が事故の原因となっている場合」にまで「道路交通法規に従って運転していた運転者には事故の発生につき予見」をする必要はなく、「(予見)可能性がなかった等として過失が否定される」。

その場合のことを指して「信頼の原則」という。

 

 

〇交差点右折時に右後方から別車両が突っ込んできた接触事故の判例

平成3年11月19日 最高裁判決

道交法37条は、交差点で右折する車両等は当該交差点において直進しようとする車両等の進行妨害をしてはならない旨を規定している。

なので車両の運転者は他の車両の運転者も右規定の趣旨に従って行動するものと想定して自車を運転するのが通常である。

 

本件のように、右折しようとする車両が交差点内で停止している場合に当該右折車の後続車の運転者が右停止車両の側方から前方に出て右折進行を続けるという違法かつ危険な運転行為をすることなど、車両運転者にとって通常予想することができないところである。

※個人的な感想:妥当。

 

 

〇交差点を青色信号で直進し、同交差点出口に設けられた横断歩道を赤信号に従わずに横断してきた歩行者と衝突した事例

事故の原因を作ったのは明らかに信号無視をしている歩行者であるが、前方左右をよく見て運転をしていれば早期に歩行者を発見し横断歩道手前で停止することにより衝突を回避できる可能性が十分にありると判断される。

よって歩行者側は直進車の運転者に前方不注視の過失を問うことができる。

※個人的な感想:極論歩行者は信号無視をしてもOKという結論はなかなかに理不尽。

 

 

〇後続車両が先行車両との車間距離を十分にとらずに進行していたため、先行車両が交差点内で急制動の措置を講じたことに対応できずに追突した事例

「先行車両が交差点内で急ブレーキをかけることはないと信頼していた」等の理屈は通用しない。なので後続車の過失は相殺されない。

※個人的な感想:妥当。

 

 

〇被疑車両が見通しの悪い交差点を徐行することなく直進しようとした際、左方道路から一時停止の標識を無視して交差点に進入してきた別車両と衝突した事例

この件においては、まず被疑車両が「優先道路でない交差点の徐行」という道交法を破っている。そのうえで別車両も「一時停止標識の無視」という違法行為を行なっている。

この場合、被疑車両の「被害車両が一時停止の標識に従って停止してくれると信頼していた」という理屈には信用の原則は適用されない。

※個人的な感想:妥当。

 

 

〇対向直進車が突然センターラインをオーバーしたために生じた事故の判例

昭和44年12月28日 最高裁判決

特段の事情のない限り、対向車が急に自車線に進入してくることはないものと信頼して運転すれば足りるとして免責を認めた。

※個人的な感想:妥当。

 

 

〇交差点での右折時に信号無視をして突っ込んできた車両との事故の判例

昭和45年10月9日 最高裁判決

信号機の表示する信号により交通整理が行われている場合、同所を通過する者は互いにその信号に従わなければならない。

なので交差点で右折する車両の運転者は通常、他の車両の運転者も信号に従って行動するであろうことを信頼し、それを前提として注意義務を尽くせば足りるはずである。

特別な事情のないかぎり、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想して左右後方の安全を確認すべき注意義務を負うことはない。

※個人的な感想:妥当。

 

 

〇信号のある交差点の直進時の速度超過について

昭和48年6月21日 最高裁判決

青信号で直進する車両に速度違反があっても免責が認められる。

※個人的な感想:超過速度にもよるであろうが、まあ妥当。

 

 

〇青信号の交差点を徐行なしで直進時に別車線から信号無視で突っ込んできた別車両との事故

昭和52年2月18日 最高裁判決

赤信号を無視して交差点に進入する車両があることを予想して、交差点手前で停止することができるように減速して左右の安全を確認すべき注意義務はない。

※個人的な感想:妥当。

 

 

〇交差点右折時に後方から明らかに危険な運転をして突っ込んできた別車両との事故

昭和52年9月28日 名古屋高裁判決

交差点で右折しようとする運転者は、適切な右折準備態勢に入った後は、後続車が違法異常な運転をすることまで予想して後方の安全確認を尽くすべき注意義務はない。

※:個人的な感想:妥当。

 

 

〇信号のない交差点を自転車で横断中に30kmも速度超過をした貨物車に追突された事故

平成18年4月11日 千葉地裁判決

加害車の速度超過は重過失と言える。

また被害車の走行速度はゆっくりとしていたことに加えて、自転車運転者は横断歩道を通行することで他の歩行者と同様に注意を向けてくれると信頼するのが通常であり、車両等の運転者は横断歩道を通行する自転車に対して歩行者に対するのと同程度の注意義務が課せられていること(道交法38条等)に照らすと、自転車側に過失があると言うことはできない。

※個人的な感想:まったくもって妥当。

 

 

〇変形交差点に黄色信号で侵入した車両と赤信号を無視をして交差点に進入してきた自転車とが出合い頭の衝突をした事故

平成22年5月26日 東京地裁判決

対面信号黄色で交差点に進入した乗用車でも、交差道路を走行する車両が赤信号で交差点内に進入してくることはないと信頼して走行するのが通常であるとして、自転車運転者の過失を70%とした。

個人的な感想:交通弱者という理由だけで何をやっても無条件で30%も過失が相殺されるのはなかなかに理不尽。

 

 

〇T字路交差点で右折時に後続車両が無理に追い越しをしようとして左折してきた別車両と起こした事故

平成5年3月22日裁定・本審第312号 東京本部(?)

補足:この事故の加害車両は後続車。被害車両は左折車。加害車両側が優先道路だった。

事故状況としては、T字路交差点において直進車(加害車両)が追い越しのための右側はみ出し禁止規制に違反した。そして前方に停止中の訴外右折車両を追い抜くために対向車線にはみ出して走行した。その結果、右側交差道路から左折して交差点に進入してきた被害車両と衝突している。

加害車両には追い越しのための右側はみ出し禁止の道路で右側にはみ出して走行した過失、また交差点内において追い越しをした重大な過失がある。

他方、被害車両には相手が追い越し禁止に違反することまで予想して行動する義務はない。たとえ加害車両側の道路が優先道路であったとしても、優先でない道路の対向車線に進入することは許容されていない。

よって、加害車両側が主張している7:3の過失相殺は認められない(被害車両側の主張は10:0)。

※個人的な感想:妥当。加害車両側の面の皮が厚すぎてすごい。

 

 

〇信頼の原則に限界について

自動車運転上、もっとも基本的な注意義務である前方注視義務や車間距離保持義務等まで免除されるわけではない。

また信頼の原則を適用するためには、相手方の適切な行為を信頼することに相当性があることが必要である。なので被疑者側に重大な過失や道路交通法違反がある場合には、信頼の原則は適用されない。

これは、いわゆる「クリーンハンドの法理」と呼ばれるものである。

※個人的な感想:妥当。きれいなお手々。

 

 

 

 

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